見出し
二箇所に設置された「いのちの電話」
三段壁臨時交番からすぐの場所には、電話ボックスが設置されています。ただ、この電話ボックスはただ電話をするために置かれているわけではなく、自殺者が救いを求められるようにするための「いのちの電話」なのです。
福井県にある有名自殺スポット「東尋坊」でも、いのちの電話は設置されていることで知られていますが、やはりこういう場所には置かれているんですね。。
この「いのちの電話」を管理しているのは、地元のNPO法人である『白浜レスキューネットワーク』です。毎月、白浜レスキューネットワークは会報を発行しており、その資料を見てみると、この電話を含め団体には毎月100件近くのSOS電話がかかってくるとのこと。
三段壁では、普段から地元の警察も含めパトロールも行われている。
電話ボックスには、一機の公衆電話と十円玉が数枚入っている瓶が置かれていました。この十円玉は、自殺に思いとどまり公衆電話で救いを求める方々のために置かれたもの。
きっと、この十円玉が多くの命を救っているに違いない。
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自殺者を救うNPO団体の戦い
いのちの電話を管理している「白浜レスキューネットワーク」とはどのような団体なのか。実際にその団体に取材をするまでは至りませんでしたが、様々な資料を参照してその背景を調査しました。
「いのちの電話」の誕生秘話
まずは、いのちの電話の誕生秘話について。今では三段壁に二台置かれているこの公衆電話はどのような背景があり誕生したのでしょうか??
この電話を開設した人物は、江見太郎(えみ・たろう)という人物でした。
彼は岡山県の出身。小学校のとき、クリスチャンであった岸田先生の人格に心酔し、キリスト教徒として洗礼を受けることに。その後、家族の反対を押し切って、1946(昭和21)年に神戸市の新学校へ入学。
その後、1953(昭和28)年4月に彼が初めて南紀白浜へ旅行した時に、「口紅の碑」を見て大きなショックを受けたという。そして、これが江見と白浜との運命的な出会いとなるのです。
その後、江見は1965(昭和40)年に白浜へ赴任。そして、三段壁での投身自殺者が多いことを知っており、何とかしなければと考え、最初は「口紅の碑」の近くに自殺防止を呼び掛ける立て看板を立てることに。
これには大変効果があり、付近の公衆電話からかかってくる悩める人たちから多くの相談が寄せられ、。彼はこの方達との応答や説得、それに自殺を思いとどまらせた人たちの帰郷旅費の捻出に頭を悩ませていたそうです。
そんな時、御坊市に住んでいる元小学校校長の東公さんが、この実情を知り協力を申し出てくれ、この人が発起人となって1979(昭和54)年3月に、西牟婁郡県事務所で「いのちの電話を支える会」が結成され、この年にいのちの電話が開設されたのです。
ただし、当初は悪用していたずら電話を掛けたり、冷やかしたりする例も多かったそうな。。
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日々寄せられるSOSの声
白浜レスキューネットワークの活動は多岐にわたっているそうです。三段壁の見回りでは年間100人ほどを保護しており、三段壁だけではなく駅や道端で保護することもあるという。
ただ、この団体は保護するだけでなく保護した方々を自立人導くための支援活動も行っているという。
借金を抱えた者、精神的に参ってしまった者、金銭的に生活が厳しく生活に追い詰められた者、最愛のパートナーを亡くした者など、様々な要因で生きることに絶望して三段壁を訪れた方々を救済しているのです。
白浜レスキューネットワークによせられるSOSの電話は毎月100件ほど。上のグラフは2015年5月~2018年4月のデータです。ただし、全てが三段壁にあるいのちの電話からというわけではなく、この団体の支援活動に頼るために遠方から連絡してくる人もいるという。
SOSの電話をしてくる方々の背景は人それぞれ。
↓白浜レスキューネットワークが発行した会報の中で、いくつかのケースを以下に抜粋しました。
愛知県から五日間かけて歩いてきた男性を保護(2011年6月6日)
三段壁の展望台から飛び降り、下の木に引っかかって身動きが取れなくなった。警察と消防に連絡し、大掛かりな救助活動が行われた。(2011年8月9日)
タクシー運転手が、お客さんの様子がおかしいことに気づき、「一度話を聞いてもらおう」と説得し、NPOへと連れて行った。(2011年8月15日)
山梨の図書館で当NPOの活動を知り、車を走らせてきた。共同生活に加わることになった(2012年3月)
男性を保護。突然仕事を解雇され途方に暮れ、生きることにも疲れたと自殺を考える。共同生活に加わる。(2018年2月25日)
串本警察署からの依頼で女性を保護。去年9月に全部捨てて日本中を回り、本州最南端で自生を終えようと思った(2018年3月1日)
三段壁にて40代の男性を保護。認知症の母親を介護していたが、介護による疲れと、仕事をしたいという葛藤から死を覚悟して三段壁に来たが、最後の一歩が出ず電話をくれた。話をする中で、仕事を頑張りたいという意思を自分自身で確認し、自立に向けて共同生活に加わることになった。(2016年8月28日)
三段壁から電話があり、70代の男性を保護した。九州の出身で、数十年前に大阪に出てきた。過去に四度の結婚と離婚を繰り返した。今まで親戚づきあいを避けてきたため、いざという時に頼れる所がどこにもないことに気付いたという。仕事や人間関係でうまくいかなくなり、どうにでもなれと、死に場所を探して白浜まで来ていた。最後のお金で酒を買い、死のうと思ったが、崖の上から海を見て、これじゃ低すぎて死ねないと思った。帰りの交通費もなく困り果てたところで、看板に目がとまり電話をかけた。(2016年1月6日)
2011年6月までは「震災で大変な状況なのに私の悩みなんて・・」と話し始めた相談者が7月に入ってからは震災について触れる人はほとんどいなくなったという。
自殺に追い詰められている方々は、 他人と比較して自分の状況に絶望する人もいれば、震災報道などによって感情を突き動かされることもある。
数年前までは、日本の年間自殺者数は三万人を超え続け、有名人の自殺もワイドショーで取り上げられ続けました。ところが、現在は三万人を切って、現在は二万人台。
仮に二万人だとしても、20分に一人が自殺している計算になるわけですから、そう考えると何とも言えない気持ちになります。。しかも、これら自殺に認定されるのは遺書があり明確に自殺と判定されたケースになるため、間違いなく実際はもっと多いです。。
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展望台から飛び降りたらまず助からない
福井県にある有名な自殺スポット「東尋坊」も、三段壁と同様に海に対して切り立った崖がそびえる場所。現地の方が言うには、この崖から飛び降りた際、自殺に成功する確率は70%ほどだという。
しかし、三段壁は一番高い場所で崖下64m。その場所から飛び降りるとまず助からないという。飛び降りた場合は、岩場に激突するか水面にたたきつけられるか、水面にたたきつけれらたとしても、その衝撃で助かることはない。。
遺体は十中八九発見されるという。さらには、身元も99%判明する。白浜で死ぬ人は地元人であるケースはほとんどなく、大阪が多いらしい。
東尋坊や高知県の浦戸大橋などは、遺体は岸へ漂着します。そして、沖に浮いている遺体は船で回収するのです。しかし、ここ三段壁ではそうはいかない。というのも、この断崖絶壁は下に降りれる道がないため、警官がロープ伝いに平均40mの絶壁を吊り下がって降りていかなければいけないのです。
今では白浜レスキューネットワークの方々がパトロールを行っているほか、現場では防犯カメラを設置するようにもなったそうです。
とても便利になった日本ですが、年間二万人以上が自殺する昨今。仕事や家庭内問題など悩むことはたくさんありますよね。
先ほどのグラフのように自殺者は年々減少していけばいいですが、今後はどうなることやら。。一番の要因は、就職率ですかね。やはり景気が悪くて仕事がなくなると、皆余裕がなくなりますから。。私も個人事業主ですし、仕事を失う危険性は突然やってくるかもしれない。。
おわりに
毎年15名ほどが投身自殺を行うという三段壁。日中は多くの観光客がでにぎわっている光景を見ていると、夜な夜な人生に絶望した方々が訪れるとは、いかにも信じがたい。。
三段壁はとても景色はきれいなんですが、どうも素直にその光景を楽しむことができない。。綺麗なその海に、いったいどんな苦しみを抱えた方々がここに飛び込んでいくのかを考えてしまいます。
果たして、これからもここでの自殺者は後を絶たないのか。。また、和歌山に行く際には、ふらっと寄ってみようかな。。
↓ちなみに、東尋坊と青木ヶ原樹海の記事はこちらです。良ければ読んでみてください!
参考文献
詳細・地図
住所 | 和歌山県西牟婁郡白浜町三段 |
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営業時間 | 終日開放 |
入場料 | 無料 |
駐車場 | 無料 |
電話番号 | 0739-43-6588 |
アクセス | 紀勢自動車道 南紀白浜ICから、車で12分ほど |
リンク | http://www.town.shirahama.wakayama.jp/kanko/midokoro/1454402124674.html |